トップページ > ヨミモノ > [創邦Q面] 第5面 福原徹の「孤雁 ―富樫左衛門のこと」

ヨミモノヨミモノ

創邦Q面

創邦Q面

~「この人、この曲」探訪の旅~

第5面第5面 福原徹の「孤雁 ―富樫左衛門のこと」

つくるということについて、ついでにいろいろ聞いてみよう。
――新しい台本がきたら、どういうふうに作曲なさいます?

福原 徹:「え、やっぱり自分で思うのは、自分の作品をつくりたいんですよね。つくり上げるところからね。じぶんの興味がまず第一ですかね。」

――興味を持つ持たないは何がポイントですか?

徹:「題材はあるかもしれませんが、直観かな。でも食わず嫌いっていうこともありますからね。
それと自分で気を付けなきゃと思うのは、内容の良さと曲の良さってイコールじゃないでしょう。この話はわかるけど、これ現代にやる意味あるのっていう感じることもあるでしょ」

――ということは、やっぱり現代にやる意味みたいなものを考えてらっしゃる?

徹:「理屈で考えているわけじゃないけど、興味が持てないっていうのがあるかな。これだけ今いろんなことがある時代につくるわけですからね。
例えば、骨太のストーリーがあって、それが後半になるにしたがって、ある種の勢いというかそういうのがあって、それが深くなってなおかつ時代を超えたストーリーで、というものはやりたいと思います。
数年前に自分の会でやった「マクベス」には、あきらかに現代の反映があったわけですよ。ああいう普通の人が勘違いして暴君になって国中の人を巻き込んで不幸になっていくという、現代に実際にある話。それがあって、なおかつドラマティックにうごいている、ことばの力が感じられる。そういうものでしたね、「マクベス」は。」

さらに、これは烏滸がましいことですけど、と前置きして新作について語る。

徹:「お客様に新鮮なものをお見せしたいという気持ちです。そして見ている人にもなにか発見なり、もっと大袈裟に言えば自分のターニングポイントになるような、曲を聴いた前と後では違っている、何か見つけたものがあるということを願っています。
それは共演者についてもそう思っています。結局、見ている人は作品を見ている一方で、演奏家に「はじけて」ほしいってのがあるじゃないですか、安全に収まっているんじゃなくて、この人こんなのやるの!っていうの。やる方もはじける、見てる方もはじける、という。」
「憂鬱だった人が、なにかもう一日頑張ってみようかなとか。自分も音楽によってそうだったので、そういうものになりたいという気持ちがある。そうなれると思っているわけではないけど、そういうことに携われるようになりたいなと。」

そういう人にとって古典曲はどうなのだろうか。「徹の笛」では自作品ばかりでなく古典曲も取り上げている。それについては、

徹:「常磐津の「山姥」の一部、地歌の「ゆき」、あれらは内容というより曲が好きだからですね。音楽としてよくできていて、それが好き、それを吹きたいってこと。吹いた時にアガル、いわゆるアガル曲っていうことです。
そんなに笛がたくさん入っているわけでもないし、なぜ好きなのか聞かれたことがあって、で、「名曲だと思うんだよね」と答えました。それはもしかしたらぼくが歌から入ったからかもしれないですね。長唄で好きな曲が、必ずしも笛がものすごく目立つ曲っていうわけでもないですから。」

――なるほど。長唄の古典曲でお好きなのはどのあたりですか?

徹:「蜘蛛拍子舞」なんかも好きなんですよ。それから「操り三番叟」が好き。「操り」の派手さ、明るさ。一方で「雛鶴三番叟」は「翁」をよくここまでソフトにしたよなと思うし、間違いなくそこには三番叟のスピリットもあって、すごいと思う。あと曲的に好きなのは「二人椀久」。出だし、筒井筒、遊里の三浦、と好きですね。さんざんタマをやっといて、トチチントンシャン、〽さとの」と、ふわーっといく、あの気の長さ。「雛鶴」は古風さが好きですね。

――近代の作品はどうですか。

徹:「黒塚」も好きですよ。

――お好きなのは二景ですか?

徹:「二景ですね。笛の人は誰でも好きだと思うけど。最初の「こさふかば」もわらべ歌のところも。〽こさふかば」は、ああいうのは他の曲ではあんまりないんじゃないかなあ。やや能っぽい、でもメロディがあって。「安達ヶ原」の二上りのところや「二人椀久」の筒井筒と似ているような感じがします、ぼくの中では。少し能の世界を引っぱってきたように感じる。でもそこにお箏や尺八を入れるのがうまい。逆に、お箏や尺八を入れるからああいうメロディになったのかなという気もします。そこで作曲者の頭の中が切り替わったのかな、要は箏唄のように感じて作っているのかな、という気もしますね。で、あれのすごいのは、お箏や尺八を二景だけに入れているっていうところね。四世佐吉はすごいと思います。」
「あと三世長十郎先生の「旅」も好きです。ぼくは、邦楽をつくる人はどうしても踊りを引きずっているように思っていてね、場面転換にこだわりすぎているんじゃないかと思うんですね。一気にいくはずの流れが「つなぎ」で延びちゃうっていうか。そういうところの処理が「旅」はうまいですよね。」

さて、近年芸術選奨や紫綬褒章を受賞(受章)して勢いに乗る福原徹、このところ毎年開催の「徹の笛」の次回は来年2月28日(日)に、千駄ヶ谷の国立能楽堂で開催する。
国立能楽堂で自身の会を持つのは初めてだという。あの空間で今度はどんな扉を開けてくるのか、実に楽しみである。

ききて:金子泰

X 創作Q面
ページトップへ

創邦21

創造する 邦楽の 21世紀