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~笛吹き同人福原徹が往く「この人、この曲」探訪の旅~

第1面 松永忠一郎の「蟬丸」

忠一郎:でもね、手の内にあることをやろうとしても、実際に歌詞を見て作りだすと、アッて止まりますよね。なんとなくそれでやっていくうちに、その独特の雰囲気が醸し出せたらいいなっていうかんじですね。そういうものが作品というものなんですよね。出てくるものっていいますかね。作るものは唄の節であり三味線の手なんだけれども、それを流したときに結果的になんとなくぼわっとあがる砂煙みたいなもの。それがやっぱりいいものにしたいんですよね。

――忠一郎さんが古曲に惹かれるのはそこなわけでしょ?古曲を聞いたときに出てくる、どこがおもしろいんだって言われたらどこって言えないんだけれども、でもなんかふしぎな・・・それはなにも忠一郎さんに限らず、いろんな人が感じられるところで、それが一番好きかどうかは別としても、魅力ではありますよね。で、他の音楽とか今の音楽には少ないところですよね。実はぼくも長唄で一番好きなのは「執着獅子」であり「もみぢ葉」なんですよ。

忠一郎:「執着獅子」、いいですよね。それから三下リの古い長唄というと「相生獅子」「傾城道成寺」。「雛鶴三番叟」もそうですね。「雛鶴」も、ものすごくいいと思います。それから「菊慈童」。宝暦・明和くらいの時代ですね。その辺のかんじ。 古い長唄って、とにかく三下リ。だって草摺引が三下リなんですよ。一番古い草摺、「分身(ふんじん)草摺引」が。あれって荒事ですからね。それを三下リでやるっていう。そこにぼくはものすごく惹かれた。今、荻江節でやっているあの曲です。

――荻江の「分身草摺引」、踊りで見たことはあるんだけど覚えてないなあ。

忠一郎:あれ、曲だけ聴いてもおもしろいですよ。ちょっとなよっとしたかんじなんだけど、荒事っぽさもあって。クドキみたいなのもあったりして。ものすごくセンスのある曲ですよね。それを、自分でもやりたくなっちゃったわけです。 それプラス、同じようなことを繰り返していく中でぼんやりでてくるもの。地歌の手事ものじゃないものに、わりとそういうのがあるんですけど。さっと聞くとあまりわからないんですけど、ずーっと聴いているとじわっと雰囲気が出てくるんですよね。あれが自分でできたらいいなと思って。 ・・・あの、似たようなことを繰り返しながらだんだん早くなっていくのとか、あるじゃないですか、十分にたっぷり下地つくっといて、それがグワーっとなる、あの盛り上がり感というか、それがわりと一中節とか、そのへんから派生している豊後系のものによくありますよね、繁太夫節とか。帯屋の段とかね。 それがいつぐらいから切換というか変化、パリッパリッと変化するようになったのか。それもたぶん芝居の舞台の演出が変わったせいでもあるんでしょう。たとえばセリができたからセリの合方ができるわけじゃないですか、そうやって変わっていったんじゃないですかね。踊りも昔は全く違っていたような気がしますね。

――リサイタルでそういう古いものをやってもいいんじゃないですか?

忠一郎:いや、そういう雰囲気を自分で作り出したいので、古曲も含めて古典曲はリサイタルではやるつもりはないんです。 リサイタル自体はもちろんやりたいんですけど、どうせやるならちゃんとした会をやらなきゃだめだなって思っています。お囃子を入れるものはカッチリ入れて、ちゃんとした会にしたいんですよね。

――そうすると準備がたいへんですよね。でも、お囃子の入るものとかをせず、弾き唄いばかり三番(三曲)くらいで構成するとかいうのも面白いと思うんですけどね。ご本人はお嫌だろうけど。たとえば、ぼくがもし考えるとしたら忠一郎さんの作った器楽曲、まったくひとりでやる弾き唄い、弾き唄いだけど何人か入れた小編成長唄というふうなもの、というマニアックな三番立てみたいなのにする。絶対おもしろいと思うなあ。そうすると会場もそんなに選ばなくてもできる。和室でもそうじゃなくてもいいし、お寺だってできるし。

忠一郎:お寺!

――教会だっていいし。それで忠一郎さんがそういうのを定期的に、これでもかっていうくらいに続けてやると。

忠一郎:それはまさに徹さんじゃないですか。

――いやいやそういうのをやったら絶対おもしろい、というか個人的にぼくが見たいんですよ。だって、忠一郎さんのあの古曲風のスタイルって、それに値すると思うし、また逆にそれぐらいやらないと古典のあの古曲に対抗できるようなのはなかなか得られないんじゃないかなと思うんですよ。

忠一郎:まあ、だからもうちょっとは頑張りたいなと思っているんですけどね。また短いものを、徹さんとやらせていただいたら嬉しいんですけどね。

――そうですね、今度はみんなが知っている題材だけどそれをすごく外す。裏をかくっていうのとかね。

忠一郎:今まではわりと隙間を狙ってきたというのがありますからね、そうじゃなくて、たとえば古典の何とか物みたいな有名な題材で、それから派生した曲をいくつも知っちゃった上で、そこで自分がどういうふうに作っていけるかっていうのも、やってみたいですね。考えてみれば昔ぼくが作った「梅若涙雨」だって題材は隅田川物だから、それをやってきているわけですけども。それで上下とか前後とかにして二人でやると。こうやって話してるとまたやりたいなって意欲が出てきましたよ。

――それはいい。

忠一郎:だからはやく歌詞書いてくださいよ(笑い)。

金子:ちょ、ちょっと、ええっ?(笑い)

――(笑い)なんだろうね、おかしいよね、合ってないのがいいのよ。ぼくは忠一郎さんみたいなの、すごいなと思う。おもしろい。やろうとしていることが納得がいく。ぼくは忠一郎さんみたいな曲は作らない。でも忠一郎さんが狙ってる世界っていうのはなんとなくわかる気がするの。

忠一郎:でも徹さんのアイデアっていうんですか、あれ普通の人にはなかなか思いつかない。あれがあったから「蟬丸」も成り立ったんですよ。ぼくがひとりでタラタラやっててもねえ。

――いやいや(笑い)。

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