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創邦Q面

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~笛吹き同人福原徹が往く「この人、この曲」探訪の旅~

第2面
今藤政貴の「ぼくが作曲できない理由(わけ)」

政貴:「ぼくが作曲できない理由(わけ)」は過程としてはおもしろかったですね。工程表を作りましてね、頭から作っていった。それから要所要所でみんなでディスカッションをした。
まず、忠一郎さんに前奏を頼んだ。いくつか作ってきてくれて、その中でぼくが一番好きなのにした。もう忠一郎さんには悪い、酷い話なんだけど。で、この前奏を基本テーマみたいにして、アレンジしてやっていきましょうということになった。
忠一郎さんの、ちょっとやや古典っぽいような古典っぽくないような前奏があって、その次にぼくが比較的、古典っぽくはないけど古典っぽいところを作って、次に淨貢さんが思いっきり古典的なものを作ってきて、それで時計のところ・・・時間がどんどん迫ってきて、でもできないっていうところを栄吉さんが作った。
その次がぼくで、「考えて、考えて」っていう箇所を作るんだけれども、ある程度古典的に作りますからって宣言していたんだけど、作っているうちにそうじゃなくなっちゃった(笑い)。

――ああ(笑い)。

政貴:そうしたら栄吉さんが「話が違うじゃないか、ぼくは政貴さんが古典でいくっていうから、そうならないように作ったのに」って言うわけです。そこで作曲者たちで話し合った。その時に淨貢さんが、「ちょっと乱暴だけど、栄吉さんのを途中で切って上下にして、政貴くんの部分の前後につけよう。そうすると上手くいくよ」っておっしゃった。でやってみたらほんとうに、上手くいったんです。こういうのは絶対ひとりの知恵じゃ無理だし。やっぱり淨貢さんもたくさん作曲しているし、きっといろんな難題にぶつかってきたに違いないんですよ。それでいろいろ考え方を持ってらっしゃるんでしょうね。栄吉さんも「ああ、いいですね」って言ってくれて。

――つまり、作曲のメンバーがちょうどよかったのかもしれませんね、バランスもとれて。長老二人と、栄吉さんという本当の意味での作曲家であり、忠一郎さんというまた全然違う音楽を作る人がいて。

政貴:しかも工程表をね、またみんなよく守る。淨貢先生の日にちの守り方は尋常じゃないです。

――やっぱり芝居だとタイトな日程でやらなきゃいけないからなんでしょうね。

政貴:それまでの共同作品は、分担をわりとブロックで決めて、一斉に作曲を始めることが多かったわけですけど、この曲はとにかく頭から作るっていうのをやらなきゃと思いました。前を聞いて作らないと、もうずーっとみんな一緒にいられたら別だけれど、そうじゃないとアイデアが重なってしまうんですよね。
曲が壊れていくところとか、あれはもう順番に作っていってるんですね。まず「ちょっと物足らなく作ってくれ」。次の人に「前のを前衛的にしてくれ」。「えっ前衛的!?」なんて言われながら。あれも栄吉さんがアレンジャーにまわるっていうことで、主旋律みたいなのはあとの4人が作って、それを栄吉さんがいろいろな音を足しながら仕上げていく。それはひとつやりたかったことなんですね。切った貼っただけじゃくて、それに支える音をつけてもらうっていうことも、ぼくはしたかったんですね。ひとつの部分をふたりで作るっていうようなこと。
よくみんなやらせてくれましたよね。それに尽きます。

――そしてこの曲の最初の思いつき、この曲のテーマが面白かったし画期的であった。今まで現実的なテーマ、自分たちのことを扱ったものっていうのはなかったから。

政貴:現代的なテーマなんですね、結局のところ。決してうまくいっていない自分、でも人のせいにばかりしてもいられないし、どうする⁉っていうところですよね。「自己未実現」―できていない姿と、できていない中でどう前向きになっていくかっていうのがテーマで。

――まあ個々の人もそうだし、創邦自体もそうですよね、まさしくこのグループ自体が、もがいていて、なかなか続けるのはたいへんだっていうところ。我々の抱えている問題をわりと正直に出しちゃった。だから、もっと非難されるかなあと思ったんだけど、ぼくが聞く範囲ではそれがあんまりなかったので、まあ皆さん、温かい気持ちで見てくれたし、共感もしてくれたのかな。

政貴:いやあ、どうでしょうね。難しいです。そういうのをやると思ってない人がいる。そういう「何?」っていう気持ちやビックリを、もしお客さんがギッチリ入っていたら隣の人とかと共有することもできるんでしょうけれど、そんなに入ってなかったからね。ただね、最初に徹さんが「栄吉さんの曲ができてなくて」って、神妙なお顔で幕外に出てきて、ウソのアナウンスをしたじゃないですか。あれ、栄吉さんの知り合いは全員信じたらしい(笑い)。そんなはずないじゃないですか、だってプログラムにも載っているんだし、演目変更の貼り紙もないんだし。

――あれはほんとうに、ワタクシ自身も微妙な役割で・・・(苦笑い)。

政貴:ていうか徹さん素晴らしかったですよ。ありがとうございました。

――だいぶ人格を疑われたんじゃないかなあ。

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