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創邦Q面

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~笛吹き同人福原徹が往く「この人、この曲」探訪の旅~

第2面
今藤政貴の「ぼくが作曲できない理由(わけ)」

――「ぼくが」の主人公の作曲家の役は、初演のときは杵屋巳之助さんでしたけど、あれはもう最初からそのつもりだったんですか。

政貴:そうです。主役は巳之助くんにしようと最初から思っていました。

――それは何でですか?彼のキャラクター?声?

政貴:声と、あのかんじ。それと、作曲した曲を普通はみんな自分が主で演奏するけど、ぼくは企画して作曲して作・演出してプレーヤーもっていうプレーイングマネージャーみたいなのは、ちょっと体力的に厳しいと思った。だからちゃんと主役を立ててやりたかったんですね。
そのころ巳之助くんがすごくいいかんじでいた。彼はデビューがわりに遅いんですよ。ぼくも遅い方なんですけど、出たてのころ、覚え物がもうめちゃくちゃたいへんだったんですよ。ちょうどこの曲のころって、彼が、デビューしてずーっと覚え物で苦しんでいたところから一歩出たくらいの時期だった。それがぼくにはすごくわかった。つまり彼は作曲はしていないけれども、ウワアァって頭を抱える感じ、そういう風に抱えてる人の醸し出す空気があったんです。それとまあなんといっても彼の美声。それも彼の場合、自然な声ですから。

――そうかそうか、そういうことがあったわけですね。

政貴:ぼくもよく覚え物が間に合わなくてね。劇場が明日どうにかならないかなとか、切実に思ったりしていた。それで、彼もそういう気持ちがわかるだろうと思ったんですよね。基本的にはもちろん、彼の唄うたいとしての実力が大事なんですけども。

――結果的に適任だったと思いますよ。あの曲は賛否両論あるとは思うんだけど、創邦の中でひとつのターニングポイントというかな、こういうこともできるっていうのを示したことは間違いないと思うんですね。ああいう幕開きの禁じ手みたいなことも、よく思わない人もいるだろうけど、とにかくやって良かったとぼくは思っているんですけども。
政貴さん自身はあの曲をやった後、これは自分に向いている仕事だとか、おもしろかったとか、ありますか?

政貴:何かテーマを持ってそれをひとつの曲にしていく、ひとつの舞台にしていく、そういうものについては、一回やってみてよかったと思いました。おもしろい仕事だったと思いますね。ただあの作品に関して、もう少しどうにかなったかもしれないっていう思いはありますよね。それはどこがどうっていうのじゃなくて。あれでもそれなりに時間をかけてやっていますけど、もっと時間をかけてもよかったとも思いますね。実際そうも言われた。なかなか、テーマはある程度固まっていても、それがひとつホンになっていくのって、ね?

――たいへんなことです。

政貴:しかも、関わった人それぞれの思いがある。栄吉さんは技術屋になると言いながらも、やっぱりホンを読むとあれこれ思うから、当然言う。それがぼくと一致すればいいんだけど、栄吉さんには栄吉さんの思いがあるし、ぼくにはぼくの思いがあるし、もちろん金子さんには金子さんの思いがあるし、それを最小公倍数だか最大公約数だかわからないけれど、まとめていくっていうのはものすごく難しかったんですね。で、あの形にようやくまとまった。どうしても形にしづらかったのが、最後のところ。この曲は前向きに終わりたかったんですよ。で、その前のすっごい絶望的な状況の中で、彼がどうやって前向きになるのかって、それが一番苦労したよね?

金子:そうそう。

政貴:どうやったら最後に彼が「でもやっぱり作曲をやっていく」って思えるようになるのかがね、プロットとしてすごく難しくて、結果的にすごく強引に、坂道を歩いていて、景色が変わって、上り切ったら遠くが見えたっていうのになったんだけど。ある種強引だけど、そんなものなんでしょうね。ドラマのハッピーエンドも、けっこう強引なことしてるでしょ。 最近ドラマをよく見るんですけど、「あっ、こう展開するのね」っていつも勉強になってます。あれはそこのところが一番難しかったね。

金子:どうやってもベタなかんじにしかならないし。

政貴:そう。ならない。

金子:でもそれでいいんだと思いますけども。

政貴:そこのところは栄吉さんと忠一郎さんがふたりで作ってくれたんだけど、あそこはよくできてる。って当事者のぼくが言うのも変だけど。
その前の、主人公が自暴自棄になって夜中の道を徘徊するみたいなところをぼくが作って、そこから日が昇ってきて、坂道で、坂が開けてきて、っていう動きが、うまくいっていると思うんです。最後の二つの部分は繋ぎもうまくいったし、そこがうまくいったからまとまったっていう気がしています。そこがしっくりいったから、前のところもしっくりいったみたいな・・・なんて自分で言っていいかわからないけど。言っちゃったけど。
でね、最後の追い込みは栄吉さんと忠一郎さんとがうちに来て、「これができるまで帰しませんから」みたいにして夜中までかかって作った。楽しかったですよ。
さっき言ったことと矛盾するようですけど、やっぱり企画って温め過ぎると熱が醒めちゃうんで、やれるときにやっちゃった方がいいっていうのもあるんですよね。冷静になるとだんだん「え、こんなのおもしろくないじゃん」って思っちゃうのね。だから少し頭に血が上ってる状態の時に作っちゃわないとダメっていうこともあると思います。

――またこういう企画もの、プロデュース的なものは、やりたいですか?

政貴:やりたいとは思いますけど、ただまあ自分の課題としていえば、大勢で作るとかプロデューサー的立場でいるとかいうのは置いておいて、ある大作になりそうなものを一回は自分ひとりで作ってみることが必要なんだと思います。今度そういう企画というかね、構想を思いついたら、しんどくても上手くいかなくても、とにかくひとりでやってみるっていうことが必要なんだと思う。

創作Q面 創邦11面相
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