同人きっての理論派と一番の感覚派、と思ったのはひがめかな?
- 敏 子
私、還暦還暦って触れ回ってましてね(笑)、五黄の寅なんですけど。
- 徹
僕は丑です。
- 敏 子
あー。母(初代米川敏子)も丑、米川文子先生も丑。丑はすごいんです。信念があって、ぶれない。漬物石みたいにドンって。
- 徹
いや、僕は違います…。この対談の組合せ、なんでこうなったんでしたっけ?
- 敏 子
理論派(徹)と、思い付き派(敏子)。
- 徹
それ、すごい誤解です。題名が理屈っぽく見えるのかなぁ。お箏って弦がいっぱいあっていろんな音をたくさん出せるから、お箏の方こそ理論っぽい気がするんですけど。
- 敏 子
私は理屈を考えてませんで…。楽器を弾きながら思いついたもの、なんか繋がったメロディが出てくるじゃないですか、それをとにかく録音しちゃう。ずっと弾き続けて録音して、そこからピックアップして曲を作るんです。
- 徹
でも調弦はどうするんですか?
- 敏 子
まず調弦を決めます。といっても決める時にメロディが浮かんでいるかって言うと、そうではないんです。
- 徹
じゃあ何を根拠に決めるんですか?
- 敏 子
直感的に。これで音域が決まってしまうので、それを考えて。どの音を弦を押さえて作るか考えたりもしますが、大筋はやはり思いつきですね。調弦が決まると曲が決まっちゃう感じがあるんです。
- 徹
三弦の曲もお作りになりますよね。この会の皆さんの曲をどう思いますか?
- 敏 子
あのようには書けないです。打楽器を入れる感覚を最初から持ってらっしゃるのが大きな違いですね。地歌はお囃子っていうイメージな いですから…。
- 徹
僕は逆に、この会では三味線のソロとか小編成をもっと聴きたいと思うんですけど。
- 敏 子
私は大編成の曲なんて書けないので、いいなあって思いますよ。
- 徹
実を言えば僕も、いつか創邦の三味線弾き全員つかまえて、笛吹きが作った三味線合奏曲で皆を困らせよう、という妄想もあるんですが。(笑)敏子さんには三弦独奏とか弾き歌いを作ってもらいたいですね…前奏でお箏弾いて途中から歌い出し、歌ってるうちに三弦に持ち替える…なんて、邪道ですかね?
- 敏 子
阿古屋みたい!(笑)
- 徹
お箏は弦がいっぱいあるから、端から順に弾くと何となくメロディになるような感じがありますね、それが羨ましい。複数の音も出せるし。
- 敏 子
そうですね。お三味線だとそれが出来ないし、和音も作りにくい。だからそれを違うパートで重ねていく面白さになるんですね。お笛はどうなんでしょう?篠笛と能管とありますよね、能管だけの曲ってありますか?
- 徹
この会の第1回と第2回で発表したのが能管だけだったんですが、難しいです。
- 敏 子
「天泣」を書いた時、能管の部分を作りたくて、でも私は音域も音高もわからないので、最初はアドリブでお任せしたけど、「そこも自分で作ったほうが面白いんじゃないか」って徹さんおっしゃいましたよね?
- 徹
笛吹きは作調を頼まれると、だいたい古典の既成パターンを使うんです。伴奏ではそれが重宝なんですが、新しいものを作ろうとする時でもついそちらの方へ行ってしまう。能管の手を知らないお箏の作曲家が、矢印とか図形でもいいから何かヒントを書いてくれると、そこから笛吹きが何か新しいことを考えつくかも、みたいな…。
- 敏 子
笛っていいですよね…一つの音だけで世界が出来上がるじゃないですか。
- 徹
逆にそこが危険で、それに頼っちゃう。作曲する時どうしても演奏に頼ってしまう。
- 敏 子
演奏の力が曲に大きく影響するのは演奏者として面白いですね。こちらは音の数を多くしたりメロディを重ねていかないと。それが音の繋がらない楽器の悲しいところで。
- 徹
でもその分、皆さん作曲をきちんとなさってるように思います。
- 敏 子
時間というか空間というか、ぱあっと埋まっていけるっていうのは羨ましい。お箏でも三味線でも、ゆーったりしたものを作りたいんですけど、なかなか出来にくいのはそういうところなんですね。
- 徹
じゃあ是非、笛を使って!
- 敏 子
お笛で歌っていただくメロディが作れたらいいですねぇ。
- 徹
笛がまっすぐ吹いてて、お箏が歌っちゃうっていうのも、楽しいじゃないですか。(笑)