東大仏文出の才媛と、一番若いのに同人きっての古典派、
どう折合いがつくのかな?
- ―きっかけの曲
- 金 子
作曲は創邦始まる前からなさって?
- 忠一郎
いや、断片的に書かせてもらったりもしてたけど、一曲まるまる作ったのは創邦入って初めて。
- 金 子
私はもうほんとの素人で、誘われるままに創邦に参加したんですが、ひどく場違いなかんじで。で、「梅若涙雨」っていうのをワッと書いて持っていったら、すぐに忠一郎さんが曲つけてくれた。あれで、なんとかやれそうだなって。
- 忠一郎
ぼくも歌詞を探してましたからね。あれは組歌みたいになってたから、作曲しやすかったの。
- 金 子
組歌ねえ。それっぽい書き方でした。いやあの、表記の仕方って悩ましいんですよ、印象は変わるし、作り手の姿勢も出ますし。
- ―試行錯誤もまた楽し
- 金 子
そうやってなんとなく始まっちゃったからか、知り合いだったわけでもないし、意思の疎通って点では最初はあんまり…
- 忠一郎
相談しなかった。(苦笑)
- 金 子
忠一郎さんに「今度は小栗判官を題材に」って言われた時は(注:第六回出品作「共鏡」)、とても困りまして。小栗のようないわゆる貴種流離譚は、一つ一つのエピソードがあって、それがどんどん展開していくところがミソなので、浄瑠璃ならまだしも長唄にはなりにくいんじゃないかと思うんです。でも忠一郎さんは「全然大丈夫、それがいいんだ」って言うし。
- 忠一郎
ぼくからすれば、ああいう大時代なものはなりやすいです。
- 金 子
でも全部を一曲にはしにくくありませんか?
- 忠一郎
そりゃあね。あれならまあ、上下に分けて、ですかね。
- 金 子
あっ上下?…そうしてみますか!うん、書き直しましょう。
- 忠一郎
頼みますよ。道成寺がいい例だけど、長唄ももともとブロックに分かれてて、組歌みたいなもんでしょ?だから次々展開していいんです。
- 金 子
というか、忠一郎さんはそういうスタンスで曲を作ってるってことですね。分析しちゃうと。
- ―詞と曲のビミョーな関係
- 忠一郎
20歳過ぎの頃よく映画を観に行ってたんです。イランのとか、ものすごいマイナーなフランス映画とか。映像見せてないのはつまらないですね、話の筋追うばっかりのは。…田舎の、ずうっと遠くに見える人が歩いているのを、ずうっとただ映してて終わり、なんて。それがいいのね。
- 金 子
そういうところって覚えてますよね。
- 忠一郎
…だからやっぱり、唄なり三味線なりをちゃんと聞かせないといけないんだな…内容を邪魔しない程度に…
- 金 子
作品の命運は曲(音楽)が握ってるからね。
- 忠一郎
いや、ぼくらは歌詞がないと何もできないから。歌詞によってスタイルも決まるしね。
- 金 子
でも時々ムシするでしょ?(笑)
- 忠一郎
まず聞いて、あっそうっていってちょっとムシして、自分の音楽を作る。(笑)
- 金 子
ま、いいんだ。こちらの気持ちをわかったうえで捨てるというならば。歌詞だって作り始めると、書いてるものに引っぱられていくし。
- 忠一郎
流れだよね。だから曲つくるのは、その都度その都度…事件みたいなものじゃない?こういうのが偶然できたっていう。それを聴いた人がおもしろいことだと思ってくれたらね。
- ―コンビ作はまだまだ続く
- 金 子
じゃあ、これからの話を。
- 忠一郎
こう、レールの上に乗っかっていて、あんまり外れずに、一歩…五歩十歩じゃなく一歩出てる、みたいなイメージでいこうと。ぼくは限定したほうがいいタイプだと思うから。かなり細い道になるけど、あれもこれもとスタイル考えてると、真ん中にすっといかないから。金子さんは?
- 金 子
具体的なこと言うと、ガチガチの古典調じゃなく、いっぺん聴いて分かり、かつ三味線の音に無理なくハマる文体をモノにしたいというのがあります。それから前作った曲を練り直す。ふつうは曲がついちゃったら、なかなか書き直したいって言えないけど、創邦ならね。
- 忠一郎
書き直しは大事ですよね。再演もしたいし。
- 金 子
曲自体のために。創邦としても、演奏会よりまず曲ありきでいきたい。
- 忠一郎
それでたまたまこうやって同じ時代に生きてて、これじゃなきゃできないっていうものが作れるといいよね。
- 金 子
時代を映そうとか新しさを出そうとか狙わないで、あるがままでいっていいんじゃないかと思ってる。
- 忠一郎
どうせ出ると思うよ、時代は。