創作Q面 創邦11面相

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ヨミモノ

いずみホール邦楽公演 日本の響き
~今藤政太郎プロデュース~
「和の音を紡ぐ」レポート

谷川 恵

 九月十三日の午後四時より大阪城に隣接する、いずみホールで今藤政太郎プロデュース「日本の響き 和の音を紡ぐ」公演が行われました。
 いずみホールはクラシック音楽専門のホールで、ウィーン・フィルハーモニーの本拠地「ウィーン楽友協会大ホール」を範に作られたシューボックス型、座席数821席の優美なコンサートホールになります。
 クラシック音楽専門のホールで邦楽の公演は異例ですが、2002年から2009年にかけて毎年、今藤政太郎プロデュースによる公演がもたれていました。今回は今藤政太郎の人間国宝認定を記念して5年ぶりに企画されました。
 演奏曲目は、四世杵屋六三郎の長唄「吾妻八景」、今藤政太郎「舟と琴」、今藤美治郎「鶴~やくそく~」、四世杵屋六三郎の長唄「勧進帳」。古典、新作をまじえた四曲になります。

1、吾妻八景
 お座敷長唄の名曲として知られていますが、1829年(文政12年)に初演され、歌舞伎から長唄を切り離し、独立した音楽作品として聴かせた最初の作品になります。 客席と舞台を隔てる幕がないため、場内が暗くなって演者が登場、位置について用意が整うと、照明が明るくなり、演奏が始まります。 三挺三枚、唄三味線それぞれに名手が顔を揃え、素晴らしい演奏となりました。とりわけタテ三味線を勤めた今藤政太郎の存在に感心させられました。 舞台で三味線を構える様子は、深い瞑想状態にあるかのよう、漢字の「玄」が表すものそのままに、超越した深淵な境地をうかがわせました。

2、舟と琴
 2010年(平成22年)に今藤政太郎邦楽リサイタルで発表された作品になります。尾上墨雪原案、今藤政太郎作曲、六世藤舎呂船作調。 古事記の下巻に収められた、仁徳天皇の御代に大木が切り倒され、舟となり、後に焼かれ、焼け残った部位で琴が作られたというエピソードを、原文そのままに詞章としています。 近世に発達した三味線という楽器で古代をどう描くのか。六挺七枚に笛、打楽器、箏、尺八、笙、合唱をまじえ、27人と編成も大きく、舞台に並ぶ出演者を見るだけで期待がいや増します。 合唱に続いて、三味線の撥が下ろされ、響いたのは江戸の音ではなく、古事記の世界の音でした。居並ぶ器楽、声楽のうち、古事記の時代からあるものは、形も音も違うでしょうが、箏のみといってよいでしょう。それでいて違和感を感じさせないのは、大織冠の物語に杉酒屋の娘を登場させてしまう歌舞伎の嘘に通じるかもしれません。 編成の大きな新作ながら演奏は凝集度が高く、気がつけば終わりを迎えていたような、最後まで弛緩することなく別世界を現出させていた、そんな演奏でした。

3、鶴~やくそく~
 2013年(平成25年)の創邦21作品演奏会で発表された作品になります。今藤美治郎作曲、藤舎貴生作調、金子泰脚色。 よく知られた昔話「鶴の恩返し」を朗読、唄、台詞をまじえた楽曲に仕立てています。 編成は三挺二枚、笛、打楽器からなり、初演とほぼ変わらない演者が揃えられました。 二人の登場人物、鶴と男を、それぞれ初演と同じく杵屋秀子、杵屋巳之助が演じ、ときに語り、ときに唄いますが、登場人物を二人に絞ったこともあり、男女の熱情が眼前にひろがるかのように迫ってきます。それを三味線が背景となって浮き上がらせ、よく知った物語ながら印象深い作品となっていました。

4、勧進帳
 1840年(天保11年)初演、作曲は「吾妻八景」と同じ四世杵屋六三郎。 ひと公演のうちに、お座敷長唄の名曲と歌舞伎を代表する演目でもある名曲を並べて、長唄の幅広い魅力を紹介すると同時に、弾き分ける妙味、そして、二つの作品が同じ作曲家によるものである、と二重三重に仕組まれた演目立てのおもしろさに感心しますが、それだけに留まらず、六挺六枚のうちに二人の人間国宝を揃えるなど、名手が居並び、公演を締めくくるに相応しい豪華な上演となりました。

 演奏中、外に出ようと立ち上がった観客が通路で倒れ、担架で運ばれるというアクシデントがありました。AEDが拡げられ、どうなるか、と思いましたが、音楽は止むことなく、曲の終部へとなだれ込む音楽の流れは圧倒的で、聴衆を興奮させ、終わるや大きな拍手がわき起こりました。
(文中敬称略)

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