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第12回創作のキモ(創作のキモ+PLUS)
東京都「アートにエールを!ステージ型」参加公演レポート

金子 泰

 12回目の創作のキモは、2020年3月11日に予定していたが、ご承知の通りの、新型コロナ感染拡大防止をにらんでの「自粛要請」が出された状況や、そもそもご来場者や私たち主催者、関係者の安心と安全を担保するすべも確約も持てなかったことにより、不本意であったが延期することとした。
 いつできるようになるのかを睨みながら、延期しついでに私たち、すこし考えてみた。 取り上げる作品が、政太郎同人言うところの創邦21の原点でもある「しづかな流」である。「創作のキモ+PLUS」(そうさくのきも ぷらす)として、同人が解説のみならず演奏もしてみるのはどうだろうか――。
 その企画が、無観客ながら東京都の「アートにエールを!ステージ型」参加公演として実現するに至った。たいへん嬉しく、有難いことだった。
 動画が「アートにエールを!」特設サイトにて無料公開されているので、ぜひご覧いただきたい。そこが閉じた後は、創邦21サイトに移して引き続き公開する予定である。

 さて本題に入る(以下、敬称は略させていただく)。
昭和34年の三世今藤長十郎・松原奏風(清元梅吉)作曲の「しづかな流」。中勘助作のこの「しづかな流」は、日記体随想と添え書きされており、何月何日として日記的な文章と詩で構成されている。その中からいくつかを選んでオムニバス形式にし、最初と最後に象徴的な文章をつけて枠とし、当時まだ40代半ばの三世今藤長十郎と20代後半の松原奏風(清元梅吉)が作曲したものである。
 岩波書店から出ていた単行本を手に入れて見たところ、もちろん、この曲の「しんぞみそめた」「独楽」「たれやらの」…という構成順と本の掲載順とは異なっており、文楽座のくだりは本には見当たらない。今、「もちろん」と言ったが、本に書かれた順に拘らず、選んだ詩や文章の順番を入れ替えたりして一つの音楽作品として構成する作業を「当然」と思うことも、大きく見れば三世今藤長十郎の影響のように思えてきた。…これは余談。

 「創作のキモ+PLUS」は、前半に解説、後半に演奏とした。
「解説」部において、創作の当時を知る今藤政太郎と米川敏子が、思い出話を交えて作品の画期的なところや魅力全般を語った(聞き手は今藤美治郎。なお解説中の実演を今藤長龍郎が担当した)。
 その内容を箇条書きで挙げると、 ・戦後、器楽曲中心の現代邦楽が隆盛になった一方で、三世長十郎は、唄のある作品の創作を手掛けた。
・「しづかな流」の委嘱を受けた時、長十郎は40代半ば。そしてまだ20代の松原奏風をパートナーに抜擢する。この、「名人は名人を知る」ともいうべき感性と勇気に驚嘆する。
・自らの邦楽器を使った邦楽作品を「新古典」と呼び、古典を基にして創作をする姿勢の長十郎と、大和楽の影響を大いに受けていたに違いなく、六音音階を使い奏風楽を興したモダンな奏風、その二人の作風の違いが小品の作品個々を粒立たせ、曲全体としてもバランスが素晴らしい。
・奏風の「独楽」の「きえのこる」という歌詞のところの哀愁。詞章に込めた中勘助の意を汲み取り、文字通りきえのこる余韻を湛える作曲の見事さ。
・長十郎の義太夫好みが表れている「文楽座」のくだり。義太夫の古典の形を借りてその世界を濃厚に描き、そこから御詠歌へ展開する構成(演出と言ってもいいか)の見事さ。
・「独楽」も「文楽座」も、それに平べったく曲をつけず、作曲者が場面を立体的に構成していること。
・長十郎は局部転調の名人。

 その後、助演の方も入れて作品の前半を中心に演奏した。演奏箇所と担当を以下に記す。
プロローグ…杵屋巳之助(朗読)、米川敏子(箏)、中川敏裕(十七絃)、福原徹(笛)
しんぞみそめた…杵屋秀子、今藤政子(唄)、杵屋巳之助(朗読)今藤美治郎(三味線)、藤舎清之(打物)
独楽…杵屋巳之助(朗読)、今藤政子、中川綾、今藤政貴(唄)、清元栄吉、今藤長龍郎(三味線)、米川敏子(箏)、中川敏裕(十七絃)
たれやらの…今藤政貴(唄)、米川敏子(箏)、中川敏裕(十七絃)、福原徹(笛)、杵屋巳之助(朗読)
文楽座…杵屋秀子(唄)、松永忠一郎、今藤美治郎(三味線)、杵屋巳之助(朗読)/清野正嗣(狂言方)
あだしがはら…今藤政子、中川綾、今藤政貴、杵屋巳之助(唄)藤舎清之(打物)
エピローグ…杵屋巳之助(朗読)、米川敏子(箏)、中川敏裕(十七絃)、福原徹(笛)

 同人たちは演奏家としてまた作曲家として、実際に演奏して思うものもあったのではないかと推察する。やはり今一度、通常の形態の「創作のキモ」で「しづかな流」を取り上げて、そんな話などを発端にして作品のキモに迫ってみたいと思う。

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