『チャンスオペレーション・一期一会・予定調和』
今藤 政太郎
去る10月27日、藤本昭子さんの第95回地歌ライブに行ってきた。
藤本昭子さんの地歌、佐藤允彦さんのピアノで、あの響きの紀尾井ホールでやるという。
???と思ったのはぼく一人だけではなかったろう。
しかしぼくの予想は見事に裏切られた。
演奏された曲目のうち、「みだれ」とピアノについては想像の範囲のものであった。
最も偏見と先入観を持ってしまっていた地歌の「ゆき」と「黒髪」を聴いたとき、コラボとかセッションとか、そんな言い古された言葉ではない、新鮮な感動を覚えた。
ぼくの80年近い音楽人生の中で特筆すべき感銘を受けたのである。これは古典の邦楽に新しい息吹を与え、可能性というものを求めて新しい試みが実行され、見事に実を結んだものだと思う。
チャンスオペレーションの範疇には違いないのだろうが、そこに精緻な計算と理知と透徹した感性が恐ろしいまでの勇気の下に実行された様を、目の当たりにした。まるで予定調和でもあるかのようだった。
様式の壁は厚い。さらに新しい試みが様式化して定着するのは、なお難しい。
しかしこの間の催しで、ぼくはその光を見た(聴いた)ような気がした。邦楽の将来も見捨てたもんじゃないと思った。
「藤本昭子地歌ライブ」を聴いて
今藤政太郎