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最後に作った三味線「共鳴(ともなり)」

今藤 政太郎

 ぼくが三味線を最後に作ったのは2015年のことでした。
 その頃から、なんとなく技術また体力の面で変調を感じ、辛い思いをしながらも、周りの唄や三味線の人々に助けられて何とか演奏することができていましたが、引退の時期を考えなくてはいけないように思いを致しておりました。
 それでも演奏を続けられたのは、皆様の支えがあってのこと。
 そんな頃に作った三味線に、何か銘をつけようと思い立ちました。銘を書いていただくのは、現・四世今藤長十郎家元にお願いしようと思いました。家元は美的な才能にも恵まれて、みごとな筆跡で書いてくれます。いろいろ考えて、こんなぼくでも演奏ができるのは皆さんと《ともなり 共鳴(レゾナンス)》があるからだという気持ちから、それを銘と致しました。

 この「共鳴」が、ぼくの最後に作った三味線です。この三味線を作ってくれた三雅さんとは、当代の三代前・お祖父さんの時からお世話になっています。かれこれ二十挺ぐらい作りました。
 ぼくは腕力膂力が弱く、剛腕で鳴る三味線弾きではありません。ぼくが弾きこなせる三味線でそれなりの性能を維持するには、三味線屋さんの惜しみない努力があってはじめて成り立ったことと思うにつけ、今なお三雅さんには感謝しております。

 そしてこの共鳴という三味線、この名をつけたこと、最近知った言葉《ポジティブ・ループ》にふさわしいものだとさえ思います。
 この《ポジティブ・ループ》、これは芸術家にとって、そしてそれ以上に人間にとって、とても大事なことだと思います。三味線を弾く力が衰えた時に、その言葉を強く感じるようになりました。そうしてみると力の衰えは必ずしも悪いことではないなと思うようになった、記念の楽器です。
 最後の三味線に寄せて、共鳴という言葉について思うことを記してみました。

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