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藪の中

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作・作曲・作調

作詞:金子 泰
作曲:今藤 長龍郎、今藤 政貴、今藤 政太郎、今藤 美治郎、清元 栄吉、福原 徹、松永 忠一郎、米川 敏子

発表年

2022年

作者より

金子 泰
「阿古屋の琴責」というお芝居がある。恋人の景清の居場所を知らないと言う遊女阿古屋が、噓をついていたら奏でる楽器の音色に出ようというので、詮議として三種の楽器を弾かされる。事程左様に音楽には、自分でも認知していないものまで滲ませたり、奏でる人と聴く人の心のどこかを共鳴させる力があるように思う。
芥川龍之介の「藪の中」を題材に、創邦21で音楽をつくる。音楽の力によって、登場人物の背後まで現れる瞬間に出会えたらよいがと祈っている。
「藪の中」を取り上げるにあたって、最初の且つ最大の難問は、原作との距離であった。一つの事象を複数の視点で語る構成こそが「藪の中」のキモだが、それに準じれば全編が語りになってしまう。それで良いのかどうか。
同人皆で話し合ってこちらの肚も漸く決まり、シンプルに登場人物を三角関係の人たちと第一発見者の木樵りに絞って、それぞれが語る構成に落ち着いた。誰がどんな嘘をついているのかはわからないし、犯人探しはたぶんそんなに重要ではない。それよりも、どうして三人とも「やった」と言うのか。
そうか、「殺し」は罪の象徴、あるいはその人を映す装置なのだと思い至った。すると見えていた光景が変わったのだった。
現実に誰もが何かしらの罪を犯して、みにくい姿を晒しているのだ、彼ら三人のように。しかし彼らは語ることをやめない。原作のそこに吸い寄せられたのは、今のこの時代の要請もあるか。
今回、この作品で演奏を聴きたい方々に協演をお願いした。身内を褒めてしまうが当会同人の演奏力も高い。阿古屋ではないが、演奏そのものも味わっていただけたら幸いである。
※公演プログラムより転載


福原 徹
創立25周年を迎え、いつもと異なる企画をということで、同人全員で一つの作品「藪の中」を創る。しかし合同作品となると、いわゆる総花的な、そして大編成の長大な作品になりやすい。そこで、作者である金子文芸同人と、作曲同人の中でやや浮いているかもしれない(と自覚する)私が実行委員になり、公平感などは全く考慮せず、ここをこの人に創ってもらいたい…ただその思いのみで分担を決め、さらに時間、編成など全て先に指定してしまう方式をとった。後から足したり削ったりするのではなく、あらかじめ条件を設定し、その中で作曲者が自由奔放に創る  これはすなわち、この謎の多い「藪の中」の登場人物たちが作品世界の中で自由闊達に語りだす、ということに繋がるはずだ。
同人たちは全員創立当初からのメンバーである。互いの手口は見透かされている。しかし、皆さん第一線で活躍する百戦錬磨の演奏家でもある。なにか仕掛けてくるに違いない。
※公演プログラムより転載


今藤 長龍郎
今回の企画、いかがでしょうか?
わたくしは最後の部分を担当させていただきました。作品名が「藪の中」ですから直接的な音楽表現をして良いものか、かなり悩みましたが、わたくしなりですが無表現な部分も作品の表現として加えました。
かなりの難産でしたが、一つ引き出しが増えたような気がします。
わたくし作曲部分は演奏家の皆様の演奏そして表現力頼みですが、各同人作品の色によってどのような彩りになっていくか、一同人としても楽しみです。
※公演プログラムより転載


今藤 政貴
「藪の中」ということばは、元となった小説よりも、その〝いいまわし〟のほうが有名になってしまっているようだが、小説本体もさすが芥川龍之介の作品だけあって、おもしろい。私の担当部分は「木樵りの物語」で、言ってしまえば事件のあらましを語るだけなのだが、いろいろ想像をかきたてられるくだりでもある。木樵りは死骸を眼前に、なにを思ったか、感じたか。狼狽したのか、わりと落ち着いていたのか。彼にとって縹の水干・さび烏帽子の男は、一体どんな人物に映っていたのか?そして、犯人立候補者が三人もいるおかげで疑われずにすんでいる第一発見者は、本当にただの第一発見者だったのか?そんなこんなが頭の中でうず巻くまま、しかし曲自体は、殺人現場の深刻さを少しだけ意識しつつも淡々と流れるものにしようと思った。
※公演プログラムより転載


今藤 政太郎
「藪の中」という文芸作品の題名は一般名詞として立派に通用している。作品の価値を証拠づける材料と言えるだろう。優れて主観的な物語であるとともに極めて客観的な物語のような気がする。何度熟読しても結論らしいものは出て来ない。作者は読者に甲斐のないとも言える問い掛けをしている。今回、創邦21の作曲者8人が作っても、文字通り藪の中である。みんなの所を照らし合わせてもよくわからないが、それが面白い。僕も惑わされつつ、結局登場人物のうたを作ることになった。文体に合わせて無調のようにも調性感のあるようにも聞こえるうたを作ってみた。歌い手はさぞ迷惑だったことだろう。でも仕方がない。これは「藪の中」だから…。
※公演プログラムより転載


今藤 美治郎
今回は25周年の企画として、一つの作品を同人一同で作曲した。
文芸の金子同人と笛の福原同人が作詞と構成を担当し、作曲箇所の割り当てや演奏編成を決めて作り上げるという、初めての試みでの作品発表会となる。
作曲者それぞれの作風や色がその構成にどの様にマッチしていくのか、どんな世界観が広がって行くのか、そんな事も想像しながら持ち場を作って行く作業となった。発表会当日が楽しみな作品である。
※公演プログラムより転載


清元 栄吉
出来上がった歌詞を見ましたら「芥川作品を音楽にする!」といった類いのプレッシャーではなくて三亀松の弾きうたいが聴こえてまいりました。何度読んでもどうしてもアンコ入りの都々逸に見えましたのでそのとおりになりました。コロナを経てずいぶんと遠くにいってしまった昭和への私なりのオマージュでもございます。
※公演プログラムより転載


松永 忠一郎
我々が普段使用している三味線は、時代により形や大きさが少しずつ変化しながら現代に至っております。
今回は古楽器を使った新作に挑戦してみました。使用する楽器は名工・石村近江による、現代にわずかに残る貴重な三味線です。遠く元禄時代の音色と、現代の題材がどう溶け合うのか、三味線音楽のこれからを考えるに、いい試みなのではないかと思います。
※公演プログラムより転載


米川 敏子
今回、同人全員で一曲を作り上げると言う初の冒険をしましたが、各々の特徴が各場面に生かされて、良い作品が出来上がりました。本番の空気、相乗効果が加わって、創邦の歴史に名を残す一曲となりますよう願います。
創作の未来を切り開くために、私達は頑張って参ります!
※公演プログラムより転載


歌詞

歌詞(PDF:1100KB)

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