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第15回 創邦21公開講座「創作のキモ」レポート

新シリーズ! 古典名曲を深掘りする①
「吾妻八景」四代目杵屋六三郎 作詞・作曲
文政12年(1829)
~邦楽新時代の幕開け~

福原 徹

  第15回創邦21公開講座「創作のキモ」は、「古典名曲を深掘りする」という新シリーズの1回目として、長唄「吾妻八景」(四世杵屋六三郎)を取り上げて開催された。サブタイトルは「邦楽新時代の幕開け」。
 今藤長龍郎、松永忠一郎、金子泰の同人3名が担当。
 また、実演ゲストとして、唄方の今藤政之祐氏に御協力いただいた。

 学生、演奏家、長唄愛好家、研究・評論の先生方をはじめ、文字通り老若男女様々の満員のお客様にお見えいただいた今回は、「吾妻八景」について、担当同人の話と生演奏がなされた。結果的に(3分割ではあったが)全曲を生演奏で聞くことが出来る企画。

 これまでの「創作のキモ」では、取り上げる作品を生演奏で全曲聞くということが、なかなか実現できなかった。古典の邦楽作品はそれなりの時間を要するものが多く、それを時間内に全曲聞くとなると、その鑑賞の前後に短い解説トークを入れるというような、いわゆる「解説付き演奏会」の企画になってしまう。
 また、編成の大きな曲や、使われる楽器の種類が多いような曲は、生演奏で演奏することが会場的にも人員的にも困難であり、結局、録音音源を聞くか、生演奏であっても部分的なものに限らざるを得なかった。
 取り上げるテーマが、自分たちが作った作品そのものを取り上げるか、古典作品の場合は技法や経緯、あるいは楽器の特性などに焦点を当てて、それを複数の曲の中で見て行く、というような企画が多かったのも、そういった全曲生演奏の困難さが一つの要因だったように思う。

 今回は「吾妻八景」1曲を、言わば真正面から取り上げた。三味線方2名と作詞家、3名の同人による、名曲「直球勝負」である。
 この作品は、唄1+三味線2というミニマムな編成で演奏可能であり、また「佃」「砧」「楽」という3つの特徴的な合方を擁しており、それを軸にして曲全体を3分割して話と演奏をすることで、話の内容と生演奏がわかりやすくリンクされていたように感じた。
 また、担当同人が「作品を客観的に分析する」というよりも、「作曲者がどうやって作ったのかに思いを巡らせて、もし自分たちが作ったとしたらどうなるのか?」という視点で臨んでいたのが、とても新鮮な印象で、聞いている側も楽しめる企画となった。

 作曲者の四世六三郎は、「勧進帳」「藤娘」「俄獅子」など名曲をたくさん残しているが、この「吾妻八景」は舞踊から離れた、かなりの「野心作」と言える作品になっており、調子や構成、箏曲を意識したと思われる器楽的な側面、また唄の付け方も含め、非常に挑戦的な作り方をしていることが、長龍郎・忠一郎両同人の(途中でたびたび三味線を持ち実演を交えながらの)話によって面白く理解できた。(二人の同人が全く異なるキャラクターであることも、面白く聞けた大きな要因であったと思う。)
 さらに、まさに目の前の至近距離での生演奏を聞くことで、話の内容を曲の流れの中で実感・体感できたことも、納得感が大きかったように感じられた。

 作詞家である金子同人からは、この作品が従来の伝統的な「八景物」とは異なり、いわゆる八景アイテムの夕暮れや夜よりも、むしろ日いずる東のイメージを重ねたと考えられる、新しい「八景(八名所)」物であることが比較・指摘され、大変興味深かった。

 「吾妻八景」というと、私などは「長唄の代表的な名曲」などと、つい簡単に言ってしまいがちなのだが、歌詞・曲ともに、それまで作られてきた長唄作品とは明らかに一線を画す、非常に斬新な作品となっていることにあらためて気付かされ、とても楽しく話と演奏を聞きながらも、(内心では)襟を正す思いをさせられることとなった。

(2023年7月5日 於 アコスタディオ)

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