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第4回 創作のキモ レポート

谷川 恵

2013年9月11日、四谷の紫山会館で第4回 創邦21 公開講座 創作のキモが開催されました。
今回つけられた副題「スタイル・らしさ・っぽさ」には、作曲者の個性は、どうして、どのように生まれ、表れるのか、迫ってみようという企画意図が込められています。一部では松永忠一郎さんの「梅若涙雨(うめわかなみだあめ)」について、二部では今藤美治郎さんの「たのきゅう」について、それぞれ作曲者が聞き役の金子泰さんとの対話を通じて、作曲の思い出や工夫した点を述べられました。
一部の「梅若涙雨」は作詞 金子泰、作曲 松永忠一郎、作調 藤舎呂英により1997年に初演されました。松永忠一郎さんの処女作になります。曲の冒頭から歌詞を追いながら、忠一郎さんによる弾き唄いも交えつつ解説が進んでいきます。作詞者と作曲者という作曲の当事者二人が登壇して語るだけに、興味深いやり取りがなされました。文語それも古典調に書かれてはいますが、現代を舞台にしているので、音の上でも現代を意識しました、など。続いて初演時の録音を通して聴いた後、来場者との質疑応答となりました。いくつか質問や感想が続いた中で今藤政太郎同人の言葉が印象に残っています。それは、曲を聴いて、忠一郎さんは三味線が、三味線音楽が好きなんだなぁ、ということが、よく分かりました。その一方、私(政太郎)が忠一郎さんのように曲が作れるかといえば、できないと思います、というものでした。同じく作曲される方からの意見ですが、第一作から忠一郎さんはスタイルを持っていたということか、と気づかされました。
休憩を挟んで、第二部へ。
「たのきゅう」は作曲 今藤美治郎、作調 藤舎呂英により2005年に初演されました。2006年には改作されて舞踊劇として歌舞伎座で上演されています。二部では、初演時の録音を通して聴いた後、美治郎さんの弾き唄いも交えながらの解説となりました。昔話に材をとっていて、詞も分かりやすければ、曲も、耳にしたことがある合方が効果的に使われていて、聴いていると、目の前に状景が浮かんでくるようでした。話を伺うと、作為的にそうされていて、作曲だから新しいこと、難しいものを目指すのではなく、これまでにあるものの組み合わせを変えたり、少し手を加えることで、新しいものを作っていきたいのだとか。創邦21の演奏会でも日本昔話に材をとった作品を続けて発表されていますが、今はこのスタイルに落ち着かれているそうです。作曲に取り組みだした最初は、新しいものを考えださなければいけないと思ったけれど、何も出てこなかった、と謙遜もおありでしょうが、自らの経験を誠実に披露されていたことが、印象に残っています。一方で「古典っぽく作られたとおっしゃいますが、私には新作らしく聞こえます」とおっしゃるお客さまもいらっしゃいました。
どうしても大勢のお客さまを前に意見や感想を述べられる方は少ないですけれど、お開きの後で直接、作曲者に熱心に質問される方もいて、一方的でない意見の交換ができたことは有意義なことに思えました。

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