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第6回 創邦21公開講座「創作のキモ」レポート

福原 徹

今藤政貴同人の発案によるこの企画も、今回で6回目を迎えた。前回に引き続き、大勢のお客様にお越しいただき、和やかながらも濃密な2時間となった。
今回のテーマは「共同制作二態」。文字通り、複数の同人の作曲による作品が二つ取り上げられた。いずれも本年11月5日(木)紀尾井小ホールで開催される「第13回創 邦21作品演奏会」に於いて再演される作品である。

「からんくにゆき」
作詞:塩田律
作曲:今藤政太郎、杵屋淨貢、清元栄吉
初演:2006年 第7回創邦21作品演奏会

この講座では「切りつめた世界」というタイトルで、今藤政貴同人が「ききて」となり、作曲者の3同人に作曲の経緯や思いをきいた。
創邦21ではこれまでも、複数の作曲者による合同作品を発表してきていた。しかし合同作品となると、どうしても総花的な作品になりがちであり、冗長になるきらいがある。そこでこの作品では、この作品の発案者である栄吉同人が作曲者チームのまとめ役となり「足し算でなく、一本筋の通ったもの」(栄吉・談)を目指した、とのことである。(編成も、合同作品にありがちな多種多様な楽器を使う大きなものではなく、小編成の作品となっている。)

この作品の作曲には栄吉同人以外に、政太郎・淨貢の両同人が参加している。栄吉同人があえて「大御所」の2人を引き込んだ経緯、またその2人から見た「栄吉感」なども、それぞれの口から聞くことができたが、3人の中で一番「後輩」である栄吉同人がイニシアチブを執り、「大先輩」2人を言わば「手足のように使って」(政貴・談)作られた作品である。
政太郎・淨貢の両同人が三味線演奏家としての活動を始めた後に、舞踊家などから依頼されて「こしらえもの」(政太郎・談)をしてきたのとは異なり、栄吉同人は藝大作曲科出身であり、三味線を弾くようになる前からすでに「曲を書く」キャリアをスタートさせていた。その栄吉同人が、いわゆる「美味しいところ」を大先輩に任せて、当人はアレンジャー役に徹し、全体が一人の作曲家によって作られたような作品を目指したことが、この作品の大きなポイントと思われる。
作品の題材は「からゆきさん」で、歌詞は栄吉同人が現地取材を経て得た知識や思いと、有名な「島原の子守唄」を資料として、当時創邦21文芸同人であった塩田律氏に依頼し作られたものである。歌詞の上では悲惨なことは、あえて何も語られていない。しかし、「こんな悲しい気持ちで作曲したのは初めて」(淨貢・談)というような強い思いが、立場もキャリアも異なる作曲者・作詞者全員に共通しており、また1丁1枚という極限ともいえる編成の中で清元延綾氏の好演も得て、感動的な作品となった。
講座の中では、参考として「島原の子守唄」の録音が流され、また本来は門外不出(!?)であろう作曲当時の「仮録音」音源なども披露され、大御所2人の口からは創邦21発足時の思いや、先代・今藤長十郎師による「創作邦楽」活動黎明期などについても語られた。
なお栄吉同人によれば、来る11月の演奏会での再演では、さらに完成度を上げて編成を2丁2枚に笛を加えた計5人編成にふくらませるとのことであり、それも大変楽しみである。

 

「大岡信 折々のうた から
構成:金子泰
作曲:今藤長龍郎、今藤政太郎、今藤美治郎、杵屋淨貢、米川敏子
初演:2009年 第9回創邦21作品演奏会

こちらの作品については「オムニバスな作り方」というタイトルで、構成を担当した金子同人が進行役となり、長龍郎、美治郎、米川の3同人に話をきくというというスタイル。
この作品も「からんくにゆき」同様、複数の作曲者による共同制作、合同曲である。しかし、こちらは複数の歌詞からなる作品であり、作曲者も5人、楽器編成も様々…という、いわゆるオムニバスな作品である。このような作品は、ますます総花的、冗長になりやすい。それをどうクリアするのか?
まず、各々の歌詞が長いと、当然ながら全体も長くなってしまう。一つ一つの詞は短くなければならない。創邦21の文芸同人である金子同人が、大岡信氏の「折々のうた」から詞を選んだ理由はそこにある。また、「折々のうた」で取り上げられている詩歌は、作者も時代も国も形態も様々である。したがって、そこから作られる音楽にも「いろいろな形、広がりが生まれるであろう」(金子・談)という狙いもあった。
詞の選定をした金子同人は、美治郎同人にこの作品の音楽面の監修役を務めるよう依頼し、どの詞を誰に割り当てるかを2人で相談したそうである。さらに、各々が前奏などを作ってしまうと全体の流れが緩慢なるので、言わば「単刀直入に」作ること、個々の作品所要時間も3分を目安に…等の制限をかけて作曲者に依頼したとのこと。
そのような金子・美治郎の両同人の腐心談(苦心談?)の後、来場者に配られていた各々の作曲部分の譜面の一部(これも門外不出であろう!?)のコピーを見ながら、また作品の音源を部分的に流しながら、それぞれの作曲者が自身の分担部分について語る、という進行となった。
各々のあてがわれた詞への思い、編成、記譜法の相違、また譜面から滲み出てくる作品の色合いといったようなものが、音源や話からだけでなく目からも感じられ、そこから各同人のキャラクターや作風の違いなども垣間見えてくる。この作品の作曲者は「私以外の4人は皆さん長唄三味線の人ばかりなのに、みんな違う!」(米川・談)。
8つの詞に対して作曲者が5名、というのも面白い。8つのうち6つは個人作曲だが、あとの一つは美治郎同人が作ったものに長龍郎同人が上調子を加えたもの。もう一つは前半を淨貢同人、後半を政太郎同人が作曲した。(ちなみに、その詞も凡兆と芭蕉による「付合」である。)
さらに全体の「額縁として」(美治郎・談)前奏や後奏を作り、また個々の作品のツナギとして演奏にのせたナレーションを加えるという演出が施された。
美治郎・金子の両同人が、各作曲者の作風をよく理解した上で、作品全体への目配りも緩めることなく作品作りを進めたことがこの作品の鍵となっているように思われる。
11月の再演では詞を増やし新しい形になるとのことで、さらに期待される。

今回の「創作のキモ」で取り上げられた上記2作品は、前述の通りいずれも複数の作曲者による合同作品であるが、作品の作り方は全く異なる。一般にありがちな総花的・冗長な作品になることを回避する作り方を両作品の「まとめ役」が徹底して工夫しており、それが成果をあげている。また、そのように常に作品全体への目配りを怠らなかったことにより、単に長さの問題だけでなく、作品のテーマへの掘り下げ方や、作品全体の統一感、緊張感といったようなものも、洗練されたものとなったと感じられる。
これは、普段から同人どうしが率直に意見を交わしあったり、作品を聞きあったりし続けてきた、「創邦21」であればこそ、の成果と言えるであろう。振り返ってみれば、この「創邦21」は最初の演奏会を開催する前から、会議、試演会などをたびたび重ねて来ていて、また同人の中には世代・キャリアの差があるものの各自の意見は自由・対等に発言され、どんな考えも最大限尊重されるという、稀有な会である。

11月5日の第13回作品演奏会では、この2曲はじめ、全ての曲目が過去の「創邦21」で発表され高い反響を受けたもの、いわば自信作が並んでおります。それらの作品が、さらに手を加えられ、また演奏の精度も格段と上がるはずです。
お一人でも多くの皆様にお越しいただき、忌憚のないご意見を頂戴できればと、切に願っております。

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